「男の甲斐性」

３．

「・・・先輩！松下先輩！」
誰かが自分の名前を読んでいる。
「起きて下さい、松下先輩！」
覚醒していく意識の中で視界に入ってきたのは隆臣の後輩、桑野壮弥であっ
た。
「ん、・・・ゆ・・・め、だったのか？」
「何ですかこんな時に眠って。しかも夢なんて見てたんですか？」
その大きい体に合った元気な声で後輩は呆れた声を出す。
自分は椅子に座ったまま眠っていたようで、どうやらアレは望み通りに夢だっ
たらしい。
ほ、っと一安心した隆臣は桑野に声をかける。
「ああ、すまな・・・・な、なんだ桑野、その格好は？」
視界に入れた桑野の紋付袴姿に驚いた隆臣は思わず座っていた椅子からず
り落ちた。
「何言ってるんですか、今日は結婚式じゃないですか？」
「結・・・婚？て、誰のだ？」
「ま〜だ寝ぼけてるんですか？松下先輩のに決まってるじゃないですか」
「？！」

よく観ると自分も真っ白なタキシードを着て、しっかりとした花婿の正装をして
いる。と言うことは今居る立派な建物は・・・・教会の待合室？
何時の間に！だが自分は洋装よりも和装で、教会よりも神社の方が、とまた
間違った突っ込みをしている隆臣さんを置いて話はどんどん進んで行く。
「あ、もう時間じゃないですか！あんな綺麗な嫁さんを貰うんですから遅刻した
ら罰が当たりますよ先輩！」
「え、ああ」
思わず素直に肯いてしまった隆臣を桑野は引きずるようにして祭壇へと連れ
て行った。
しかし花嫁は一体誰なんだ・・・まさか・・・・・・・・・・・・・・・？
背筋に寒いものが走り抜けていくのを感じながらも隆臣は祭壇の前から逃げ
る事が出来なかった。
ざっと見た限りでは夢実の姿も見あたらない。もしかしたら自分の花嫁は夢実
なのか？と微かな希望を持つ。
タタタタ〜ン〜♪
悩む隆臣の近くでオルガンが軽快な音を紡ぎだした。いよいよ花嫁の登場の
ようだ。
吉と出るか凶と出るか（酷い）・・・・後ろの扉が開き花嫁が姿を現す。彼の居
る場所からは逆光になるため花嫁の顔がまだ良く視えない。
高鳴る鼓動を抑えつつ、バージンロードを歩く花嫁から彼は目を離せないで
た。
そして、隆臣の隣りへと立ち止まった瞬間、花嫁の薄いベールの下に見えた
顔は―――――――――――――――