「男の甲斐性」

４．

「明けましておめでと〜vvv」
晴天の寒空の下、無駄に愛を振りまく男の声が響く。
「明けましておめでとうございます、ミコお兄ちゃん、松下先輩」
それに笑顔で答えるのは可愛い着物姿が似合う柳瀬夢実。
「ああ、明けましておめでとう柳瀬」
夢実の挨拶だけに答えるのは少し顔色の優れない松下隆臣。
ここはとある神社の鳥居の前。
演劇部全員で新年のお参りをしようと集まる途中で顔を合わせた三人は一足
早く、新年の挨拶を交わしていた。
「松下先輩、気分でも悪いんですか？顔色が余りよくないですよ・・・」

「あ・・・ああ、夢見が余り良くなくてな」
夢実に下から上目遣いに覗き込まれた隆臣は、思わぬ顔の近さに頬を少し
赤らめながら答えを返す。
「へーオミッチの初夢は悪夢だったのか？」
そこに割って入って来たのは夢実を真似て可愛いらしい（かは不明）上目遣
いを作る命人。
その姿に昨夜の悪夢を思い出し、隆臣は固まったまま命人のことを凝視して
しまう。
見詰め合う瞳と瞳・・・・。
「もしかして俺に惚れた？」
ガンツッ！！
返事の変わりに拳骨が躊躇いも無く命人の脳天にヒットした。
「いったーいっ、何するのっ？！私女優よ！」
「ミコお兄ちゃん、叩かれたのは頭だよ。頬おさえてどうするの？」
「あ、そうだった。つい癖で」
いろいろと突っ込み所が満載な会話に隆臣は溜息を漏らす事しか出来なかっ
た。
その後もいろいろ騒ぎながら三人は歩き出だす。

「まあ、そう悪い夢でもなかったか・・・？」
どこまでも青く晴れ渡る空を見つつ、二人に聞こえないように隆臣はそっと呟
いた。

―END―